logo

CollectonPublication
All IssueDesigner's Note

  イヴ叢書のこと
EVE Series
 ギャラリー・イヴの山元千秋さんから、展覧会と連動する詩画集叢書刊行の意向を打ち明けられたのは、2000年の春だったろうか。7月に提出した企画書には、企画・製作=山元、デザイン=白井、編集=郡というスタッフの名前のほか、「一篇一冊の詩画集叢書(詩文と画との分量・比重は各冊異なる)」「情報とイメージに還元し得ない、物質としての書物の魅力を再発見したい」「出版流通機構の要請から自明とされがちな書物の構成要素を再検討したい」などとメモしてある。「再」の字の重複がくどいが、一度立ち止まって書物の歴史を振り返り、(インターネットの普及によって事後的に明らかになりつつある)書物の固有性を確認したい、書店の平台で消費されることを最終目的とせず、読者が手に取ってページを開く現場へ向けて(なぜなら、書物は読まれることによって完成するから。それは数年後かもしれないし、10年後、ひょっとしたら100年後かもしれない)、「絵と文」からなる本のミニマムな形を三人で作ってみたい、という希望があった。
 白井さんと、この叢書にとって何が不要か、何が必要かを、たがいに思いつくまま列挙して検討した。書店で棚差しになることはないだろうから、棚の寸法は気にしないで、ただし紙の取り都合が不合理にならないように、判型はA4判正寸としよう。背文字もいらない。1色印刷の文字と4色印刷の図版とは(そもそも印刷の目指す方向が違うのだから)、この少部数であれば一緒に刷らず、別々の用紙に刷って、図版を貼り込みにしてもいい。別丁扉や見返しはいらないけれど、ページがしっかり開くように、そして読み込んでも壊れないように、糸ミシン綴じにしよう等々、たしか細川叢書の杉捷夫訳『イールのヴイーナス』(1947年、細川書店)を間に置いて話した。
 本文32ページ。前付けとしてp. 1=前扉(本文と同一書体、同じ組み方)、P. 2=白、P. 3=大扉、P・4=英文クレジット、後付けとしてp. 30=展覧会クレジット、P・31=奥付、P. 32=白という叢書全篇を通して共通の、逆にいえば各篇を叢書として成り立たせるためのフォーマットが決定したのは、第1篇の作業中のことだ。この叢書が縦組み・右開きであることを強調するため、奇数(左)ページに重点を置いた。その他、通常一首を一行に収めることに拘らない短歌をどう組むか(書体、字間、ルビの付け方、詞書きの組み方)を、北原白秋の『桐の花』(1913年、東雲堂刊)を参考に議論したことを覚えている。
 第2篇で、初めて散文の本文を相手にした。1ページの行数を一定にしないで、図版との対応を心掛け、物語の切れ目を捜しながら本文を分割した。行頭・行末の禁則処理を最低限に減らして、できるだけ本文の文字の横並びを揃えようとし始めたのはこの号からだ。第3篇は初めての書き下ろしテクスト。詩と図像を有機的に縮み合わせたくて、「貼り込み」をやめ4色/1色印刷で、おもに詩を1色ページに、図像を4色ページに配置した。
 第3篇の本文が合計わずか200字ちょっとだったのに対して、第4篇は400字詰め原稿用紙に換算して約100枚を収容している。3段組の本文フォーマットは、改造社のB5版『佐藤春夫全集』(1931〜32年)を参考にした。翌年5月に矢川さんが自殺された。ギャラリー・イヴで「矢川澄子追悼展」を開催し、『ユリイカ臨時増刊 矢川澄子・不滅の少女』(青土社)を宇野さんのアートデイレクション、白井さんのデザイン、郡の編集で刊行したのは、この本の刊行からちょうど1年後のことだった。
 第5篇は漆喰塗りの白壁に写真が貼ってある感じを狙って、マットコート紙の本文に薄手のミラーコート紙に刷った図版を貼り込んだ。段落行頭2字下げ。第6篇は、文字数の多さでは今のところ第4篇と双璧だが、詩=1段組、コント=2段組、エッセイ=3段組。鈴木信太郎訳『どリチスの歌』(初版、白水社、19う4年。新潮文庫版、1956年。角川文庫版、1962年)のいずれもオリーヴ・グリーンの本文に勇気づけられ、文字をブルー・ブラックで刷った。
 現在の書籍・雑誌の本文組版は、全角ベタ組とプロポーショナル詰め組とにほぼ二分されると思うが、第7篇では、昭和初頭の円本・文庫本登場までは(高級な)、文芸書の一般的な組版モードだった字問空け組を試みた。句読点と括弧類は字間の四分空きに収め、句点の後ろのみ全角空けた。第8篇は和英パイリンガル。句読点をともに行の左右中央に配置した小円に置き換えることや、欧文書体、匡郭(本文の周囲の枠線)の意匠など、日本で最初期に活字で印刷された書物であるキリシタン版本を模倣した。ただし、本文の配置法は、平安時代の女手(仮名書)に始まる「散らし書き」のスタイルを模している。第9篇は、西山美なコさんの美術作品と、石井辰彦さんの書き下ろし短歌連作との「実の崩壊」を主題とするコラボレーション。山元さん、白井さん、今度はどんな感じでいきましょうか。
 
郡淳一郎(編集者)

Page Top